新しい果実/GRAPEVINE【考察】

好きなバンドの新譜が出た。

 

私は毎日楽しんで暮らしているタイプの人間だが、好きなバンドの新譜が出ることほど素晴らしい出来事は、そう無い。

興奮冷めやらぬ中、一日新しい曲を一曲ずつ、少しずつ大事に聴いている。

 

先行シングル的な位置づけで3曲(アルバム曲順としても1-3曲目)が配信されていたが、こちらもYouTubeで配信される都度楽しく聴いていた。

ここで素人リスナー(ファン歴20年くらい)兼素人ブロガー(年に数回更新)である私が勝手な考察(という名の感想文)を書き始めようと思う。

 

♪ねずみ浄土

最初の印象「ちょ…曲名…笑」

リードシングル2発目に発表された曲ですね。

「お、そんなキレイめなシティポップやっちゃう?俺らのバインとうとう売れちゃう?」とファンから心配されるほど珍しくイマドキな曲。

しかし歌詞では東西の宗教観を対比しつつ世相批判をするっていうかなり挑戦的でアイロニー(曲調と歌詞の対比)にアイロニー(歌詞の中での対比)を重ねるバインらしさ全開のミルフィーユ的な曲です。

MVでは、異国のホテルウーマンが踊りながら日々のルーチンワークをこなしていくという、シュールさ、美しさとコミカルさを併せ持った世界観でストーリーが進みます。

 

歌詞について

アダムとイブ、新たなフルーツ(=リンゴかな)、復楽園…と海外の宗教観を出したかと思いきや「お餅は搗けましたか」→

そこからネズミが降臨し「葛籠はどっちでしたか」(おそらく昔話:舌切り雀)「おむすびころりん」(昔話:ねずみ浄土&曲名の回収)と日本昔話へシーンが変わる。

また「オリジナルシン」(原罪=キリスト教の概念)と海外宗教観へ…

ここは西洋⇔日本(東洋)いずれもの昔話・価値観をリンクさせてるらしい。

日本には固定の宗教が無い代わりに、昔話の様な物語を以てして教訓・教養としてきたんだよなぁ、とか(脱線)。

歌詞の辺りの考察はRealsound様が素晴らしい記事を書いてらっしゃるのでここらへんで。

 

このバンドの曲がスルメと呼ばれる所存は、一曲の情報量が多すぎて一度ではすべてに理解が及ばないところにあると考えている。こんなググりまくらないと何言ってるか分かんない曲作るバンド僕は他に知らない。あと彼ら曲作るの楽しみすぎて色々実験しちゃうから一聴では違和感のある(場合によっては聴きやすくない)曲も多いですからね。

 

 

♪目覚ましはいつも鳴りやまない

リードシングル3曲目。

田中氏は「子供の目覚ましが止まんないなぁ」との気付きから歌詞を連想したとの事。

なんのこっちゃ。良いパパかよ。

バイン流のハッピーポップソング。聴きやすさ100%でオシャ感も保持しつつ、歌詞も社会人をはじめ、日常を頑張る人たちへ向けた応援ソングです。世が世ならミスチル的立ち位置の曲かも知れません(嗚呼、そんな時代も…)。

    リヴィングジャストイナフフォーザシティ

恐らくStevie WonderさんのLiving for the City:汚れた街から歌詞を拝借していると思われます。

意味合いとしては「この街でしっかり生きていくんだ」「この街で生きていくには十分だ」という感じでしょうか。

 

♪Gifted

リードシングルでは発表1曲目。

破裂音ともとれるドラム(ハイタム辺り)の音が強烈にスパンスパンいうイントロ。

このイントロめちゃくちゃインパクトがあってワクワクゾクゾクしました。

 こんな分かりやすくダークさ全開なのスロウ以来?とか。

 光なんて届かなかったんだ

って歌詞、ALL THE LIGHTの流れと真逆の事を言ってない?と思いきや、田中氏によれば「大きなテーマとしては、どちらも同じことを書いてると思うんですよ。優しく言うか、厳しく辛辣に言うかの違いだけの話で。」(引用:Realsound様)とのこと。

ふーん、言うじゃん←

 

♪居眠り

ちょっと印象薄いかな…


♪ぬばたま

今のところ一番リピートしてます。

美しいピアノソロから

 愛がすべてなんて

 言われてはかなわない

という歌詞から歌い始める曲。

ぬばたま、って地名しか知らなかったけど、ヒオウギという花がつける真っ黒な実の事で、万葉集では枕詞としてよく使われたそうな。こんな美しく響く日本語なんだなぁと感嘆。バインを聴いてると良い影響として語彙が増えることが挙げられます。

前半の歌詞はほの暗い幻想的なラブストーリー調、中盤から世相批判とアイロニー

でも

 小便と油を炒めるスメル

はダメでしょう…笑

まぁ曲が終始美しいから許しちゃうんだけどね…

 

 

♪阿

まさか私の苗字の一部が曲名になろうとは←

「阿」をモチーフに歌詞が展開されていきます。

「にせんエックス年」て表現久々に聞いたな笑

 阿る →おもねる

 阿保

 阿修羅

 阿吽

 阿鼻叫喚

 阿弥陀

アルバムの中の「ロックポジ」曲ですかね。

ベースラインがベネ。

 

 

さみだれ

「亀曲=泣き曲」

自分の中ではこの方程式。亀井さんの作るグッドメロディは不滅です。

作曲が先だったらしく、田中氏が作詞する時も「いいメロディやから、いい歌詞にしないと」と言った気持ちで作詞されているようで(引用:natalie様)、ストレートな美しい歌詞です。

ミドルテンポのメロウなメロディと併せて畳み掛けてきますね。

 遠回りして賑わう通りを避けて

 花を買う

 気紛れだって窓辺に飾ればまた

 明日があって

 ただこうやってただこうやって

 あなたがここに在って

 笑い合って涙流して

 心は軽くなって

 この日々はずっと

 この手は離さないと

 温もりは永遠と

 そっと胸に刻んでいた

昔、他のアーティストのバインに関するインタビューで、トライセラの和田さんが

「彼の作る曲の歌詞を聴けば、彼が『陽』側の人間だって分かる」的な事を仰ってたのを思い出した。

長く聴ける曲だな、と感じた。

 

 

 ♪ josh

これもスルーしてしまう方の曲かな…

変な電子音で始まるのが好きになれない笑


リヴァイアサン

90年代風のポップ&ロック調の少しアップテンポな曲。(不協和音ぽいの多様してるけど)

 憂き世リヴァイアサン

 人はベヒモス

リヴァイアサンはご存知、旧約聖書に登場する海中の怪物。ゲームとかでもよく出てくるイメージ。

ベヒモスもゲームに出てきそうですね。旧約聖書に登場する地上の怪物だそうな。

 潰し合いなら上等さ

こんな直接的な表現を使うのは珍しいですね、

 いくら若僧が叫んだって

 届かねえ届かねえだろ

たまに言及する、若い世代へ向けた挑戦的なメッセージか?

それとも

 騙されんなよ高校生

とするあたり、若い世代へ向けた応援歌か?

 傍観はまるで恋の味わい

傍から見てる人の不幸は蜜の味、的な

 シャーデンフロイデ寄っておいで

これ田中氏は完全にメンタリストDaiGo氏のYouTubeみてるね…

 ここが「ざまあみろ」で溢れる

一連の流れでまたもや世相批判を繰り返す田中氏。そんなに世の中に申したい事があるのか。(よくインタビュー記事には「世の中に言いたいことはめちゃくちゃある」と言っている)

ちなみにシャーデンフロイデとは「誰かが失敗した時に思わず湧き起こってしまう喜びの感情」で、誰もが持っている感情だそうです。まぁ分かりますね。

 


♪最期にして至上の時

こちらも美しいピアノから始まるスローテンポのバラード。

しかし…なんだか奇妙なテンポだな…

と思いきや別に普通だ…

いや、やはりおかしい…

おそらくテンポは正常だけど歌詞を乗せるタイミングが変なんだ…

詳しい人教えて欲しい←

 冷えこむ晩に月が出れば

 きっとそれがあなたと

 池の水面 小石投げた

 ゆらり揺れて爆ぜた

なんてロマンチックなんでしょう。漱石は「愛している」を「月が綺麗ですね」と訳したと言う。こちらの月の件は田中氏流の愛してるなのでしょうか。(いや、独り言タッチなシチュエーションなので漱石の発言とは趣がそもそも違うか…?)

この場面では既に「あなた」が近くにいない事が分かりますね。そして曲名の「最期」という部分がさらに気になり出す気になり出す 

    月は次第に細く欠けて

    一生を告げて見せた

毎夜細くなる月に自分の残りの命を重ねているのか…

    ひねもす業に蝕まれて

    ふと肩を落とせば

    あなたがいて幸せだった

ひねもす(一日中)業=カルマ(ここでは逃げられない輪廻的なもの、悪因悪果的なものか)に蝕まれて(心も身体も)、もう余命幾ばくも無い時、ふとあなたを思い出す。

あながいて幸せだった…って、こんな直接的で平易な言葉で閉めるのかこの文節。

    最期にして至上の時

    我が身の不浄 流れてゆけ

    五臓に触れ 胸を穿ち

    祈りの向こう

    巡り会えると

朽ちる瞬間、この身が清められるといいなと期待をしてしまうんでしょうね、きっと。

本当に最期の時、「あなた」と一緒にいれたのかどうかは分からないけれど、またどういった形かで巡り会えるといいなと、祈りながら、眠りにつきましょう。

 

 

 

 

今回のアルバムは歌詞の中で二つを並べて二項対立の図を作ったり、比較検討したり、並べて遊んだりするものが多かった気がします。

東西の宗教観(ねずみ浄土)、リヴィングジャストイナフフォーザシティと足るを知る(目覚まし)、思い描く美しい世界と現実のクソな世界(ぬばたま)、風と雨、光と影(さみだれ)、リヴァイアサンベヒモス(リヴァイアサン)などなど。

 

またシティポップ的な曲作りのチャレンジ姿勢を見せつつ、全体的にはダーク寄りのトーンで、世相批判が多く日本文学臭(スメル)がしたりと面白いです。

眩いばかりの光を見せた前作ALL THE LIGHT、洋書・洋画の匂いがかなりした前々作Roadside Prophetとも異なるアプローチですね、ほんと飽きさせない。

 

 

ちょっと長くなったのでこの辺で。

また今度何かアルバムの考察(感想文)でも書きましょう。